過払い金請求を行うことができる人とは?
代理人になれる人とは?
過払い金請求が盛んに行われていますが、聞こえてくる話は弁護士に依頼して過払い金を取り返してもらったケースが多いといえます。他では、借金をしていた人が自分で業者と交渉したケースもあるようです。本来は本人が行うべき過払い金請求ですが、さまざまな事情から弁護士に代理人として動いてもらうことが一般的になっています。
一方では、弁護士に知り合いがいないから家族に頼みたいとか、家族の借金に過払いがありそうだから代理で取り返したいと考えている人もいます。家族などの身近な人が過払い金請求を代理することは可能なのかについて見ていきましょう。
まず、民法上の規定では、代理人になれる人について特別な定めはありません。法定代理人については、未成年者に対する親権者のように限定されますが、任意代理人には限定がありません。それどころか、民法102条には、代理人が行為能力者である必要はない旨の規定まであります。
そのため、未成年者を代理人にすることさえ可能です。これは、代理人が行う法律行為の効果は、代理人ではなく本人に帰属することによります。つまり、基本的に代理人が損をすることはないため、誰を代理人にしてもよいという理屈です。
一言でいえば、代理人には誰でもなれますので、家族が過払い金請求の代理をすることも法的には可能となっています。
報酬を得てはならない
ただし、弁護士や司法書士でない者は、過払い金請求の代理人になったとしても、それについて報酬を得てはなりませんし、報酬の約束をすることも許されません。その理由は、報酬目的の場合は弁護士法で禁じられた非弁行為に該当するためです。
過払い金請求を家族が代理できるケース
家族が代理するための前提条件
家族が過払い金請求の代理をするには、重要な前提条件がひとつあります。それは、借金の名義人である本人の意思によることです。具体的には、本人に過払い金請求を行う意思があり、家族である特定の人物に代理を委任した場合となっています。
本人が動けない場合
過払い金請求を家族が代理する理由としていちばんに考えられるのは、本人が動けないケースです。病気や怪我をしていると、思うように行動できないことがあり、家族に代理人になってもらうことも視野に入ってきます。
その他の事情
本人が動けないケースに限らず、委任があれば家族が代理することは可能です。
家族が法定代理人の場合
法定代理人は任意代理人とは異なり、本人による委任は必要ありません。主な法定代理について見てみましょう。
本人が未成年者のケース…一般的には、未成年者に過払い金の請求権が発生していることは考えにくいことですが、理論上はあり得ることです。この場合、親権者が代理して請求できます。
本人が成年被後見人のケース…成年被後見人には、過払い金請求を行ったり、代理を委任したりする能力がありません。そのため、成年後見人が代理して請求します。認知症などは成年被後見人になる原因の一例です。
本人が被保佐人や被補助人のケース…被保佐人や被補助人は、成年被後見人とは異なり、法律行為を行う能力がないわけではありません。しかし、能力が不足していることから、本人の同意があって代理権付与の審判がなされている場合は、保佐人や補助人が代理して請求できます。
請求金額に関する注意点
任意交渉の過払い金請求に直接の関係はありませんが、代理で過払い金請求をするときは金額にも注意する必要があります。これは、交渉が決裂して請求訴訟を起こすケースを想定してのことです。過払い金請求訴訟を起こす場合、民事訴訟法54条の規定により、簡易裁判所であれば裁判所の許可を得て訴訟代理人となることができます。
簡易裁判所で扱うことのできる事件は、金額にして140万円以下のものです。つまり、過払い金の請求金額が140万円以下であれば訴訟にもつれ込んだ場合でも、引き続き代理できる可能性があります。
もっとも、任意の交渉で請求する金額と、請求訴訟で求める金額が違っても裁判は可能です。そのため、裁判所に舞台を移す段階で請求額を減らす手が考えられます。しかし、そうすることが得かどうかはよく考える必要がありそうです。
ちなみに、140万円のラインは簡易裁判所代理権を持っている司法書士にも同じことがいえます。
過払い金請求を家族が代理できないケース
本人の委任がないケース
代理の前提条件である本人の委任がなければ、誰であっても過払い金請求の代理をできないのが原則です。ただし、前述のように任意代理ではない法定代理のケースは除きます。
また、本人の意思に反して勝手に代理することは許されませんが、もし、代理権がないにもかかわらず、代理人を名乗って過払い金請求をした場合は無権代理となります。無権代理の効果は本人には帰属しません。ただし、事後に本人が追認すれば、代理権がある代理人の行為と同様に扱われます。もっとも、貸金業者など相手方が無権代理人を相手にすることは考えにくいことです。
地方裁判所での訴訟になった場合
相手方の貸金業者などと任意の交渉を行う限りは、家族や友人知人が委任による代理を行うことは可能です。しかし、地方裁判所での訴訟事件になった場合は、別途資格を有していない限り、家族などが訴訟代理人となることはできません。資格のない者が訴訟代理人になれるのは、前述のように簡易裁判所における手続きで、裁判所の許可を得た場合に限られます。
本人が死亡した場合
家族が代理して過払い金請求を行っている最中に、本人が死亡した場合はどうでしょうか?
代理権は本人が死亡したことで消滅してしまいます。そうなると、過払い金を取り戻すことができなくなるのかといえば、そうではありません。代理人としての過払い請求はできなくなりますが、本人の死亡によって、家族には相続の開始があります。相続人となった者は、相続人の地位で過払い金請求をすることができます。
本人の死亡後に過払いが判明した場合も同様です。
代理請求をする場合に気を付けるべきポイント
相手方に納得させる必要がある
任意の交渉による過払い金請求を行う場合、気に留めておきたいのが、相手方となる貸金業者などには、交渉に応じなければならないという義務がないことです。そのため、本人からの請求であってもまともに相手にしてこない業者が存在します。この場合、家族が代理人になっていても同じことが考えられます。
また、任意の請求は本人か代理人かに関係なく一律に拒否し、裁判になった場合に過払い金を返還する方針をとっている業者があることもポイントのひとつです。この場合は、訴訟代理人を検討することになります。
さらに、本人からの請求には応じる業者だとしても、家族が代理している場合に応じるとは限りません。あくまでも交渉ごとであるため、交渉相手を納得させる必要があります。
これに関連して、代理人として過払い金請求を行うときには、自分に代理権があることをハッキリと証明できる委任状が必要だといえます。相手方である業者の立場になって考えれば、本当に代理権があるのかわからない人間を相手にできないのは当然です。
万一、代理権のない人間に過払い金を払ってしまったら大変ですし、払う・払わないにかかわらず、交渉すること自体が時間の無駄と考えられます。
本人の利益を害さないこと
代理人は本人のために行動する必要があります。そのため、本人の利益を害するような交渉をしてはいけません。弁護士でも司法書士でもない家族や知人の場合、過払い金請求の代理人になる動機としては、親切心や責任感が主になるでしょう。最後まで、その気持ちを持ち続けることが重要です。