2006年1月に過払い金請求に関する重要な最高裁判例が下される
2006年1月13日。
最高裁判所第二小法廷にて、過払い金に関する重要で画期的な判決が下されました。利息制限法で定められた法定金利を超えた分の利息支払いは、過払い金請求ができるとの判例が出たのです。それまで右肩上がりで成長を続けてきた消費者金融業界を一変させるほど、非常に影響力のある最高裁判例でした。
以降は全国各地の消費者金融への過払い金請求が多発し、業界最大手の武富士ですら倒産してしまいます。なぜ2006年1月13日の最高裁判例がこれほどまでに貸金業者に影響を与え、過払い金請求ブームとも呼ぶべき社会現象となったのでしょうか?
そもそもの原因の根底は、利息制限法、出資法、貸金業規制法の3つの法律の曖昧さにあります。利息制限法と出資法の間のグレーゾーン金利による混乱に加えて、貸金業規制法の「みなし弁済」と呼ばれる制度がさらに混乱に拍車をかけていました。
当時は、この3つの法律のお互いの矛盾点や曖昧さを、あまりにも貸し手である貸金業者に有利な解釈がなされてしまっていたのです。そのため、貸金業者はいわば法律の不備を突くような形で、高金利での貸付による利益を得続けていたのです。
2006年1月の最高裁判例が覆した当時の法律の曖昧さとは
2006年1月13日の最高裁判例が出るまでは、いわゆるグレーゾーン金利分の利息支払いをめぐって、様々な解釈がなされていました。そもそもグレーゾーン金利とはいったいどのようなものだったのでしょうか?また、なぜグレーゾーン金利による利息支払いが認められてしまっていたのでしょうか?詳しく見ていきましょう。
曖昧さ1:利息制限法、出資法のグレーゾーン金利
グレーゾーン金利とは、簡単にいってしまえば「利息制限法には引っかかるけれど、出資法では認められている金利」です。利息制限法と出資法という2つの法律によって、別々の法定金利の上限が定められてしまっている事が原因なのです。
利息制限法では、以下の金利に収まるように定められています。
- 元本が10万円未満…金利20%以下
- 元本が10万円以上100万円未満…金利18%以下
- 元本が100万円以上…金利15%以下
同時に、2006年時点での出資法では以下の規定が定められていました。
年利29.2%を超えてはならない
この2つの法律で定められた「法定金利の上限」が異なることが、そもそもの混乱の原因となっていました。
例えば元本(貸出額)が50万円だとしましょう。利息制限法に従えば、法定金利は18%となります。しかし出資法の法定金利は29.2%となってしまいます。もし貸出金利が25%であれば、利息制限法には引っかかるけれど出資法では認められるという、曖昧な状態になってしまいます。これがグレーゾーン金利です。出資法に触れると刑事罰が下されます。
一方で、利息制限法に引っかかっても刑事罰の対象にはなりません。そのため、貸金業者は出資法に触れなければ、利息制限法を超えても構わないという判断で、グレーゾーン金利を適用し続けていたのです。
曖昧さ2:貸金業規制法のみなし弁済
グレーゾーン金利による混乱にさらに拍車をかけていたのが、当時の貸金業規制法の「みなし弁済」と呼ばれる制度です。現在は廃止されているこのみなし弁済のせいで、借り手は不法な利息を支払っても、なかなか過払い請求することが難しいのが当時の実情でした。みなし弁済とはどのような制度だったのでしょうか?
利息制限法を超えるグレーゾーン金利による返済利息分は、本来は支払う必要のないものです。しかし、利息制限法の制限を超えた利息の支払いでも、みなし弁済制度では「有効な弁済があったものとしてみなす」とされてしまっていました。
当時は弁護士が過払い金請求訴訟を起こしても、貸金業者はみなし弁済を盾に徹底抗戦していました。過払い金請求には時間や費用がかかり、最終的には少ない金額で和解せざるをえない状況も頻発していました。
2006年1月の最高裁判例で、みなし弁済が否定された
2006年1月13日の最高裁判例では、みなし弁済が否定されました。その点で非常に画期的だったのです。利息制限法で定められた法定金利を超える分の利息を、貸金業者は返還しなければいけないという判断を下しました。
もし元本が50万円なら、利息制限法で定められた18%を超える分の金利によって発生した利息の支払いは必要なくなるということです。この最高裁判例以前により、過払い金訴訟は急激に増加の一途をたどります。それまでも過払い金訴訟が無かったわけではありません。
ただ、過払い金請求に関する確固たる最高裁判例が無かったため、過払い金請求を担当する弁護士は、非常に苦労しながら貸金業者との訴訟合戦を繰り広げていました。そんな中で「グレーゾーン金利分の利息に支払い義務は無い」という確固たる最高裁判例が出たおかげで、借り手に圧倒的に有利な状況が生まれたのです。
また、2006年1月19日に最高裁第一小法廷、2006年1月24日にも最高裁第三小法廷が同じ内容の最高裁判例を下しています。まさに過払い金請求を支える法的根拠が明確になった瞬間でした。
過払い金請求に必要な取引履歴の開示も最高裁判例で認められている
もう1つ、過払い金訴訟に重要な最高裁判例を覚えておきましょう。それが2005年7月19日に最高裁判所第三小法廷で下された「貸金業者の債務者に対する取引履歴開示義務の有無」の判例です。簡単に言い換えると、貸金業者は借り手から取引履歴の開示を求められた場合は、応じる義務があるという判断が下されたのです。
取引履歴とは、いくら借りて、いくら返済しているかが全て記録された情報です。過払い金請求訴訟をする時に必要になります。貸金業者によっては、借り手からの取引履歴の開示に応じない業者も存在します。
- 応じる義務はない
- そもそも古い情報は破棄した
このような言い訳をして取引履歴を開示しようとしないのです。しかし、2005年7月19日の最高裁判例で取引履歴の開示は義務との判断が下されています。過払い金請求のための取引履歴を請求するのは、借り手に認められた権利なのです。堂々と請求しましょう。
過払い金の請求期限は最高裁判例が出てから10年ではない
過払い金の請求期限は10年以内です。期限が経過すると、いくら高い利息を払っていても過払い金請求をすることはできません。それでは、この10年という期限はいつから始まるのでしょうか?よくある誤解として、過払い金請求が事実上認められた最高裁判例が下された「2006年1月13日」から10年間が期限というものがあります。
2006年の10年後、つまり2016年以降は過払い金請求ができないと勘違いしている人が多くいますが、これは明確な間違いです。過払い金請求の期限に、2006年1月13日の最高裁判例は全く関係ありません。それでは、請求期限はいつからいつまでなのでしょうか?
完済してから10年以内なら過払い金訴訟は可能!
過払い金請求ができるのは「完済してから10年以内」です。借りたお金を全て返済し終わることを完済と呼びます。完済してから10年間のみ、過払い金請求ができる決まりになっています。もしあなたが以前にグレーゾーンで消費者金融を利用していたなら、2016年以降も過払い金請求できる可能性は十分に残っています。