残高0計算とは?
「残高0計算」つまり、残高無視計算とは、過払い金請求や債務整理を行うときに、正確な債務残高の情報によって発生する引き直し計算を意味しています。この引き直し計算は、過払い金の調査や診断、返還請求を行うとき、場合によっては過払い金の請求において訴訟を行うときなど、取引の経過を把握している必要があります。
しかし、債権者である消費者金融やカード会社の取引履歴によっては、「残高0計算」を行うことになります。
たとえば、2008年4月1日から始めた借り入れがあるとします。しかし、業者から取引履歴を取り寄せたところ2013年4月1日になっていました。通常は、2008年4月1日から2013年3月31日までの記録が必要となります。この場合の冒頭表示は、「2013年4月1日現在 残高〇〇円」となるでしょう。
この例でみると、「0」計算とは、開示されているはずの取引履歴に関する冒頭残高の記録を無視するというものです。つまり、 「2008年4月1日現在 残高〇〇円」を無視し、0円として引き直し計算する、算定しなおすということになります。
残高0計算になるときの「推定計算」とは?
場合によっては、完全な状態の履歴ではないという場合には、さまざまな資料や証拠、メモや記録、記憶などの取引の経過を「推定計算」によって算定します。
「推定計算」が必要になるのは、過払い金の返還請求などのとき、また、債務整理等を行いたいときに、消費者金融やカード会社の正確な取引履歴の開示が必要です。しかし、その取引情報に基づいて引き直し計算をしますが、業者によっては正確な履歴を開示してこない、取引履歴をまったく開示しないということもあります。
それでも、過払い金請求に必要な書類ですから、「いつ(年月日)」、「いくら借入」、「いくら返済」したかという最小限の情報が必要となります。業者から取引履歴の開示がないのであれば、現在の情報に加えて、引き直し計算をすることになります。
ですから「推定計算」とは、詳細な情報がわからないときに、「このような取引の経過であろう」という推定に基づいて、引き直し計算をすることがポイントとなります。過払い金返還請求や債務の整理に必要な金額を計算するための資料を作ることです。
過払い金返還請求で「残高0計算」になる理由
通常は、取引履歴は業者のサービスセンターなどから、1~2週間程度で取り寄せることが可能です。また、債権者である消費者金融やカード会社業者には、契約者である借りている人から、取引履歴の請求があった場合には、情報を開示して履歴を提出する義務があります。
しかし、過払い金や債務整理などの使途のためということがわかると、開示しないこともあるようです。数回の開示請求を行っても提出しない場合は、業者が応じないことを監督庁に届け出をし、行政処分の申立てを行うことになります。
また、取引履歴の保存義務は10年と定められているので、一部の業者は開示しない理由として、「ある一定の期間保存後に処分」ということもあります。こうした状況では、「残高0計算」になってしまうので、業者から開示されない部分を「推測計算」する、もしくは開示された情報の残高が0円だったと仮定して、引き直し計算をすることになります。
「残高0計算」のために必要となる証拠
取引履歴が提示されず「残高0計算」になってしまう場合は、履歴上「ゼロ」になるので、何も表記するものを開示されなかったということと、「残高0計算」であることを立証、つまり明確にしていく必要があります。この取引履歴が「ゼロ」になってしまうゼロ計算の場合、借りている人か貸金業者である消費者金融やカード会社側のどちらに責任があるかを問われています。
通常は、業者が取引履歴を開示する義務があるため、全部の取引履歴を提出するという見方です。もうひとつは、消費者つまり借りた人が、残高0円であることの立証責任を持っているという考え方になります。
いずれの場合でも、借りている人か貸金業者である消費者金融やカード会社側が、「残高0円」を主張するのであれば、証拠もしくは推定となる根拠を提示しなければならないということを意味しています。
過払い金の残高「0」を立証する方法
過払い金の返還請求を訴訟の提起で進める際、裁判の証拠として「取引履歴」は必須です。しかし、業者から開示されない場合は、「残高0計算」であることを推定し、消費者の借りた側で立証することが求められます。
取引履歴が「ゼロ」になる残高0計算を明確にするには、「いつから」または「いつの時点」で取引を開始したか、つまり借り始めたかという点の情報が必要です。一般的な見方は、利息制限法に基づいて、業者と取引をしていたのが5~7年前であれば、過払いはなくなる、つまり残高は0円になると考えられています。
そこで必要となるのは、契約書や領収書、請求書、取引状況のわかる資料、銀行預金の通帳の履歴などを証拠として整えておく必要があります。5~7年以上前に借り入れの実績があることなど、大切な根拠となります。加えて、どのような取引があったか、毎月いくら程度返済していたかなどを立証できるなら、過払い金の請求に役立つでしょう。
裁判実務を考えたら「0」でも可能か?
裁判例においては、残高が「ゼロ」とするために提出する証拠として「業者に立証責任がある」というものと、「消費者が残高0円であることを明らかにする」という2種類があります。しかし、裁判所においては、多くの裁判官が消費者つまり、借りた人自身が残高0円であることを証明する必要があるという考えが浸透しています。
そのため、単に消費者金融やカード会社側が開示してこなかったため、残高0計算になっているとしても、立証責任は業者ではなく、消費者であるお金を借りた人ということになります。そこで、過払い金を戻すために請求を行う際には、「残高0計算」の立証すべき徹底的な根拠を提示し、弁護士とともに進めていく必要があります。
裁判で必要になる立証と証拠
一般的に借り入れたお金は、5~7年ほどで、残高が0円になるか過払いとなります。そのため、取引履歴に記載されている日付よりも5~7年もしくは、それ以下の期間に始まっているなら、「残高0計算」となりますが、過払い金を少しでも多く戻すために準備を進めることができるでしょう。
しかし、根拠となる資料は「推定計算」により作成する必要があります。取引履歴を開示しない業者の場合は、和解などの合意も難しいことが考えられるので、訴訟により裁判所での争いとなるでしょう。
この場合は、消費者金融やカード会社側が異論を唱えない限り、推定された書類で立証し、裁判官を納得させることを考えていきましょう。少しでも証拠となるものを増やすことも有効です。たとえば、どのような取引であったかという証拠や、月々の返済がどのくらいだったかという証拠があれば、説得力が増します。
残高0計算でも進められる過払い金請求は「立証」がポイント
「残高0計算」は、過払い金の請求では、正確な借り入れの履歴等が必要になります。しかし、さまざまな理由により消費者金融やカード会社からの取引履歴が開示されないこともあるでしょう。このような場合でも、過払い金を戻すための請求には根拠を示す必要があるので、「残高0計算」で推定計算などの資料を作成することで、請求を進めていけます。
過払い金返還請求に必要な金額を計算するための資料を作りながら、過払い分を請求するのに必要なものを整えていきましょう。