特定調停と過払い金について
借金が増えすぎてしまい、月々の支払いが困難になってしまった状況の方が行う債務整理のひとつ、特定調停。特定調停の手続き中、もしくは特定調停が成立した後にも過払い金が発覚する可能性はあります。特定調停を行なっている最中や調停で合意した後など、過払い金請求を行う際には、注意したい点がいくつかあります。特定調停を行う場合の過払い金について知っておきましょう。
特定調停とは?
特定調停とは借金の支払いが困難になってしまった債務者(借主)が、裁判所に仲裁をしてもらい、債権者(貸主)と話し合いを行い、支払い可能な状態になるよう合意をすることです。比較的、安価な費用で行えること、弁護士に依頼せずに自分で行えること、などから、債務整理が必要な状況に陥った方の中には、特定調停を選択する方も多くいます。
債務整理というと、任意整理や自己破産を思い浮かべる方は多いですよね。それらの債務整理と特定調停との違いは、特定調停の場合、裁判所が債務者と債権者の話し合いに関与するといった点です。任意整理や自己破産の場合、債務者と債権者との交渉には、弁護士などが介入することになり、裁判になった場合を除き、裁判所が交渉に関与することはありません。
特定調停では、合意が成立すると調停調書が作成され、債務者はその調停調書に従い、しっかりと生活を立て直し、返済を行うことになります。この調停調書には、支払いが滞るなど合意された約束を守れなかった場合には、強制執行を行う効力があります。
特定調停内で過払い金請求はできない
特定調停は借金返済に関する話し合いを行うのですから、取引履歴等の確認を行いながら進行して行きます。そのため、特定調停を行っている最中に過払い金が発覚する可能性はあります。特定調停の話し合いの場で発覚した過払い金についても話し合いを同時に行えれば、今後の支払いも楽になるかもしれませんが、特定調停と同時に過払い金請求は行えないことになっています。
特定調停はあくまで債務者の今後の支払いについて話し合う場。債務者が債権者に支払いを求めることになる過払い金請求は、特定調停の場では行うことができないのです。
特定調停手続き中に過払い金に気づいた場合
特定調停の中では債権者と話し合いをすることが認められていない過払い金請求。では、特定調停の手続き中に過払い金が発覚した場合はどのように対応したら良いのでしょうか。
特定調停とは別に請求を行う必要がある
債務の返済が困難になった債務者の今後の支払いについて話し合いを行う場である特定調停と、債務者が債権者に対して支払いを求めることになる過払い金返還請求は、主旨が違うものと考えられています。そのため、特定調停の手続き内では、過払い金の返還請求は行えないことになります。
過払い金の返還を求めるには、特定調停とは別に、貸金業者などに対し、過払い金返還請求を行う必要があるのです。特定調停の最中に過払い金の返還請求を行う場合は、特定調停の話し合いと過払い金返還請求についての話し合いを、別々に進行することになります。
訴訟を別途抱える場合も
債務者が直接、債権者である業者に過払い金の返還請求を行い、スムーズに話が進行すれば問題はありませんが、場合によっては話し合いが困難であったり、相手方が交渉に応じなかったりすることもあります。その場合、訴訟を起こす返還請求の方法もあります。
いずれにしても、過払い金の返還請求を行うためには、それなりの法的な知識が必要になります。訴訟にまで発展するとなると、なおさら自身で行うのには問題が出てきてしまうこともあります。そのため、特定調停とは別に専門家に依頼することになる可能性があります。
特定調停後に過払い金に気づいた場合
特定調停内では過払い金の返還請求ができないことから、調停調書が作成された、特定調停後に過払金を請求することを考える方もいるのではないでしょうか。また、合意が成立した後になって、過払い金の存在に気づくこともあるかもしれません。
特定調停後の過払い金返還請求については、調停調書の条項内容によっては返還請求ができなくなってしまう恐れもあります。
問題なく請求可能な場合
特定調停が不成立だった場合は、債務者と債権者の間には、何も取り決めが成立していないことになりますので、特定調停後でも問題なく請求することができます。
注意したい精算条項
債務者と債権者の合意が成立すると調停調書が作成され、債務者も債権者も調書で取り決めた内容を厳守することになります。この調書の中に、合意後に揉めごとなどが起こらないよう、「申立人と相手方の間には本件に定める以外一切の債権債務がないことを確認する」といった、清算条項を入れることがあります。
この清算条項は、「債務者債権者の相互」の合意となっているため、話し合いを行なったもの以外には、債権債務がないことをお互いに確認したことになっています。そのため、特定調停とは別に発生している過払い金についても、ないことに同意していることになると解釈され、過払い金の返還請求ができなくなる可能性があります。
可能との判例はある
清算条項が記載されていても、過払い金の返還を受けることができる、とされた最高裁判所の判例があるため、実際は清算条項が過払い金の返還を邪魔することはないといえます。
しかし、以前は過払い金請求を認めない裁判所もあり、判断がわかれていたといった経緯もあります。そのため、清算条項の記載が、後に不利になる可能性はないとはいえません。清算条項の記載など、特定調停の合意には注意が必要なのです。
特定調停と過払い金請求について注意したいこと
他の債務整理と比較し、一見手軽に行える方法にもみえる特定調停ですが、過払い金返還請求を考えると、さまざまな事柄に配慮して行う必要があります。特定調停と過払い金請求に関して注意したいことをまとめます。
調停中に発覚したら別途請求を行う必要がある
特定調停と過払い金返還請求は主旨が別なものと考えられているため、調停内では返還請求を行うことができません。特定調停手続き中に過払い金がみつかった場合は、別途、返還請求を行うことになります。
債務の話し合いの中で過払い金の請求も同時に行うことができる、任意整理とは扱いが違います。特定調停と過払い金返還請求を同時に行なった場合、それぞれを別に処理しなければいけなくなり、仕事をしながらこなすのは大変な手間が必要です。債務の話し合いと過払い金請求を同時に行いたいといった方は、特定調停ではなく、任意整理を検討してみても良いかもしれません。
不利にならないよう合意の際には細心の注意を
特定調停の条項内容によっては、後に過払い金返還請求を行う際、不利になる可能性があります。そのため、条項内容については注意深く考慮する必要がでてきます。債務者側が不利になるような清算条項が記載された調停調書が作成されることは少なくなってはきていますが、やはりしっかりと把握した上で合意することが望ましいです。
自分で調停を行うことが可能な特定調停ですが、やはり専門的な法知識が必要な場面も多くありますし、知らないと後で損をしてしまったり、揉めごとに発展してしまったりする可能性もあります。場合によっては、訴訟を起こしたり起こされてしまったりといった事態になることも、ないとはいえません。そういったことにならないためにも、きちんとした知識を持って取り組むようにしましょう。